ここは、利根川河口となる銚子から41kmほど遡った場所になります。利根川は日本最大の流域面積を有する一級河川で、東に水郷大橋を望むこの場所はまさに風光明媚な光景を映し出しています。実は、利根川はかつて東京湾に注いでいたのですが、度重なる水害から江戸を守るため東遷事業という名の下、60年間にわたる大工事が行われた結果、現在のような流路が形成されました。また利根川の北側の潮来や南側の佐原一帯は、水郷地区と呼ばれ、低湿地の沖積平野が広がっています。このため地震では液状化が生じやすく、それが証拠に東日本大震災では、頑強であるべき堤防や堤防に沿って走る国道356号線、通称「利根水郷ライン」にも液状化により相当な被害が発生しました。修復工事に当たっては3km先から河川敷側にダンプを入れ、液状化した土砂をすべて撤去し、鋼矢板を打ち込みました。その上で漏水対策として遮水シートを貼り、ブロックを配置、最後に芝を植え込んで自然に返しました。特に注意したことは河川敷に生息する野鳥など貴重な動物の生育環境に影響を及ぼさないようにすること、そして堤防の天端(てんば)に埋設されている光ケーブルを切断しないことです。
土木工学は古くは世界四大文明に遡り、いずれも大河流域における治水、灌漑、水運の鍵を握る技術として発展したと言われています。今日においても、河川の氾濫から人々の暮らしを守るというのは、土木工学の原点です。